プレイボーイプレイボール3

プレイボーイプレイボール3



 小高い丘の上から、夕暮れのこの町を見るのが僕は好きだ。まるでプロットのない小説のように、あちこちに人や車や電車が行き来して、勝手に生きて、勝手に一生を終えていく。一見、野放図に見えるけれど、軸がしっかりとあって、音が響いていてて、たしかならしいなにかを感じられるからかもしれない。安売りの鶏肉四百グラムと唐揚げ粉、サラダ油、パン、グリーンリーフ、トマト、鶏卵、あと食パンに妹のオヤツを自転車の前かごに入れて、僕はふらふらと帰路についた。


閑話休題<東グラウンド付近>


  九塁「チェンジアップって自転車のギアに似とるの」

   僕「チャリ乗ってんだから、危ねえだろ」

  九塁「わたし、気になります!」

   僕「やかましいわ、あと訴えられるからな、それ」

  九塁「付喪神に向かって失礼じゃの、儂、神様」

   僕「のじゃロリにも法律なんてあんのかよ」

  九塁「ある。野球にもルールがあるように、神にも規則はある」

   僕「とりあえず飛んでるの疲れない?座る?」

  九塁「疲れる。座るかの」

   僕「で、なんの用?たかりに来たの?」

  九塁「なんで投げぬのじゃ?お前さん実は野球がうまかろうに」

   僕「......野球は嫌いじゃないよ」

  九塁「家族か?部活に入ると時間が奪われるからの」

   僕「妖怪変化に言われたくねえよ。めんどくせえの、部活」

  九塁「儂はずっとお前さんを見ておったけど、キラキラしとった
     今はなんだか魚の腐った目をしておるよ」

   僕「それパワハラだからな、カミハラ」

  九塁「速球派、変化球派、玄人好みのサイドスロー、右腕、左腕」

   僕「俺は左投だ、そして凡庸なバッティングPでいいんだよ」

  九塁「油揚げ」

   僕「そこまでテンプレかよ。まあ、やるけど」


 僕以外に空波形ノイズは見えないし、聞こえない。そういうお約束なのだ、たぶん。世界の断面は、奇形樹のようなもので、切断面によって模様が少し変わっていて、真円であったり、楕円であったり、或いは空白であったりする。僕には僕の世界しかないし、他人には他人の切り口しかないのだ。分かり合おうだとか、分かち合おうだとか、そういう類の物は僕のルールに抵触する。だから僕は、イヤホンを深く耳につけて、僕だけの世界に浸る。ポストロック、ジャズ、フュージョン、クラシックの順に。


閑話休題<居間>


  僕「妹の名前の設定後付けだけどさ、伊織は朝食パン派じゃん?」

 伊織「そうだけど、それが?後付け?バカなの?」

  僕「選択肢に洋食か和食しかないのって、どう思う?」

 伊織「選べるだけましじゃん、あと私は抜く派」

  僕「知ってるけど、ちゃんと食べたほうがいいぞ」

 伊織「うっす」

  僕「スマホ触りながらだけど、やけに素直だな」

 伊織「それはスマホ触りながらだからだよ」

  僕「言ってみただけだよ」

 伊織「野球、もうやんないの?」

  僕「へたくそだからな」

 伊織「言ってみただけだよ」