プレイボーイプレイボール5

プレイボーイプレイボール5



 この僕のさながら青春手帖、雑談集とも呼ぶべきショートショートは、決して甲子園でノーノーをして恋人と結ばれたり、気になるあの子と性別が入れ替わったり、地底から悪魔大元帥が地球を侵略にやってはこない。そんな面倒くさいことなんて誰がやってやるものか、などと半ギレで漫画のセリフの吹き出しをまあ出しておくことにしよう。壊れたアクアリウムのような夜の中を、泳ぐ数匹の魚たち、そんな肩の凝る話は本棚にしまって、さあ僕たちのお話をしよう。下らないこころのキャッチボールを。


閑話休題<喫茶ノアール>


 佑二「で、本題って?」

  僕「こないだの件、引っかかってよ」

 佑二「ああ、そういやそうだな」

  僕「あ、お姉さん珈琲おかわりね」

 佑二「ほかに好きなやつができたんだ、って言ったらさ
    信じるか、おまえ」

  僕「......詠美に?おまえに?」

 佑二「言いたくねえけど、詠美に」

  僕「あいつが?そんなそぶりなかったけどな」

 佑二「誰かとよ、会ってるみたいなんだよ」

  僕「浮気とかするようなやつじゃないだろ、あいつ」

 佑二「これだから童貞は......」

  僕「どどどど、童貞ちゃうわい!(童貞だけど)」

 佑二「わかんだよ、なんか心ここにあらずみたいな」

  僕「イケメン、高身長、野球部のエース、人当たり良し
    そんで幼馴染、浮気する理由がわからん」

 佑二「眞一ってやつ、知ってるか?」

  僕「知らん、知らん(知らんことにしよう)」

 佑二「こないだデート中に俺のこと眞一って言ったんだ」

  僕「ほう、おまえ眞一って名前だったか?」

 佑二「馬鹿言え、佑二だ。そっから気になって調べたらよ
    誰かと会ってるみてえなんだ」

  僕「つけたの?スマホでも見たか?意外と女々しいな」

 佑二「うっせ、ほっとけ。でよ、問い詰めたんだ」

  僕「ほう」

 佑二「記憶でもすっぽ抜けたみたいな顔しやがったよ」

  僕「ワイルドピッチだろ、暴投だぜそれ」

 佑二「うっせえな、でさ、あいつ知らないって言うんだよ
    そんなのが、最近ずっとでよ」

  僕「ま、気にはなるよな」

 佑二「何回も眞一って呼ばれたら、流石に気が狂っちまう」

  僕「あいつ、もう痴呆入ったのか」

 佑二「茶化すなよ、そういうわけで別れたいんだ」

  僕「それとなく探り入れてやっから焦んな」

 佑二「無駄だぜ、あいつ知らないって言うだけだし」

  僕「ダチだろ、たまにはまかせてみ?」

 佑二「......頼む」

  僕「おう、だからあんま気にすんな」

 佑二「そういや試合、やるんだって?うちと」

  僕「しょんべんカーブだけは一級品だから覚悟しやがれ」

 佑二「高校でも野球やりたかったよ、お前と」

  僕「朝からトンボと、単語帳めくる違いでしかねえよ」

 佑二「勉強、頑張れよ」



 この界隈に知的好奇心が若しあるのであらば、本能的好奇心もまた同様にあるのであろう。僕は刺さるような陽射しと群がる虫を前にして、それらが何事もなく通過していく事を、ただただ祈っていた。まるで鈍行列車のように、なかなか明けない夜のように。イヤホンを通り抜け、脳髄へと伝わり、規則正しいパルスに変換され、一定の波長に変わる。空波形ノイズの予兆。僕はイヤホンを片手で左から順に外した。


閑話休題<停留所>


  僕「素敵な麦わら帽子ですね、バス待ちですか?」

 女性「あら、ご親切に。そう、隣町まで」

  僕「田舎ですからね、停留所で座って待ったほうが」

 女性「主人と旅行に来たの。やっぱりわかる?」

  僕「ええ、身なりで大体」

 女性「お時間があるなら、少しお話しませんか?」

  僕「いいですよ、自転車を止めてきます」

 九塁「(あれは一癖あるやつじゃ、未亡人系の)」

  僕「(わかってる、てかいたのかよ)」

 九塁「(ならいい、やつの顔は?)」

  僕「(黒いノイズがかかって見えない)」

 九塁「(儂からは触れんし、なにもできんからの)」

  僕「(小学生の時からなにも期待してねーよ)」

 女性「あら?そちらはお兄さんのお友達さんかしら?」

  僕「いえ、ただの知り合いの子供ですよ」

 九塁「オホホ、ワタシ、ニホンゴワカリマセーン」

  僕「瓶ラムネやるから、大人しくしてろ」

 九塁「さすがはお兄様です」

  僕「だからそれイカン系のやつだからな?
    微妙に使い方も違うし」

 女性「仲がよいのね、兄妹みたい」

  僕「お姉さん、妹はひとりで間に合ってます」

 女性「十和子でいいわよ、一期一会って大切よね」

  僕「旅は道連れ、世は情けっていいますしね」

十和子「この町って海岸があって、穏やかで、素敵ね」

  僕「それだけしか取り柄がありませんから」

十和子「それだけでよいのに、人間ってつい欲張るから」

  僕「退屈ですからね、都会には憧れますよ」

十和子「私はすっかり飽きてしまったわ」

  僕「都会の大学に行って、勉強して、就職して」

十和子「結婚して、家を買って、子供を育てるの」

  僕「それがまあ、普通ですよ」

十和子「わたしたちは普通なのかしらね」

十和子「厳密に言うと、わたしとあなたとそこの女の子は」

  僕「さあ、どうでしょう。エンドゲームは先ですし」

十和子「人生の終着駅」

  僕「ええ、あなたがこれから行く場所です」

十和子「なんだ、気づいていたのね」

  僕「来ましたよ、バス」

十和子「名残惜しいわ、でも行かなければね」

  僕「その先は見えません、俺には」

十和子「そうね、ボヤけるわ」

  僕「ボヤけますよ、いつかはみんな」

十和子「ありがとう、優しいのね」

  僕「素敵な笑顔ですね、よい旅路を」

十和子「ええ、きっと主人もいるはずだから」

  僕「十和子さん、さようなら」

十和子「ええ、さようなら。またいつか」