プレイボーイプレイボール6
プレイボーイプレイボール6
僕たちの会話文の中に限れば少なくともこの物語の中に嘘はない、おそらく。念を入れて、おおよそ、たぶん、メイビーなども付け加えておくとしよう。僕は僕の結末を確かめるために、降板せずにきちんとマウンドに立とうと思う。面倒くさいけれど、そんなことはしたくもないのだけれど。よわよわしく華奢な重力に手を引かれながら、柔らかい放物線を描きボールはミットの中におさまる。吹き出す汗を袖で拭い、僕はロジンを数回握った。冴えない後輩のサインはもちろん任せる、である。6回裏ツーアウト二死満塁という状況下、僕が貧弱なボキャブラリーの棚から選んで取り出し、投げる球はといえば。そんなものは決まっている。
閑話休題<プロムナード>
眞一「人間関係に他人がそう割って入るものじゃないよ」
僕「霊長類ヒト科って物凄く言いにくいよな」
眞一「僕らみたいなのだってホモサピエンスだよ、一応ね」
僕「懐メロを口ずさむ感覚で友達を誑かさないでくれ」
眞一「失礼だな、僕はこれでも一途なんだよ?」
僕「あいつにどうして拘る」
眞一「人は見たいモノしか見ようとしないからね」
僕「完熟を通り超して頭までお腐りになられたようで」
眞一「人を呪わば穴二つじゃあないけれど、過干渉はよくないよ」
僕「あいつには佑二ってやつがいる、それでいいんだよ」
眞一「もしも彼女がそれを望んでいないとしたら?」
僕「そんなことがあるはずがないだろうが」
眞一「もうすぐ高校を卒業して、この町から出ていくよね」
僕「あいつらもそうだよ、でも関係は続くだろうが」
眞一「彼女は此処に残る」
僕「あいつがそう言ったのか?」
眞一「他人の空似だとか、ドッペルゲンガーだとか、運命だとか」
僕「この置換しがたい感情をどう伝えればいいんだよ」
眞一「彼女が本当に好きなのは君だったのさ」
僕「は?んなわけねーだろ」
眞一「どうして僕と君は同じ顔をしているんだと思う?」
僕「んなもん知らねーよ」
眞一「彼女がそう願ったからだよ」
僕「だとしてもお前は俺じゃないだろうが」
眞一「付喪神のあの子も君の母親にそっくりじゃないか」
僕「うるさい」
眞一「人はそうして折り合いをつけているんだよ」
僕「うるさい、黙れ」
眞一「僕をわざわざ呼び出したのは君だろう?」
僕「餃子の銀将の呼びだしボタンかよ」
眞一「君たちは町から出ていく、僕らはこの町で静かに暮らす」
僕「そんな注文はしていない」
眞一「じゃあ君が彼女の気持ちに応えるべきだ」
僕「俺はあいつらを裏切れない」
眞一「なら口出しをしないことが賢明だね」
僕「手は出していいってこと?」
眞一「ほんとうに呆れるくらい臆病だよ、君は」
僕「土足で人の心に入ってきてぬけぬけと」
眞一「最近の若い人たちは門前払いが好きなようだね」
僕「ひとつ賭けをしないか?」
眞一「賭け?」
サウスポーであるという事だけで、視方が変わる。たとえば駅の改札口だったり、ギターだったり、ハサミだったり、飲食店のカウンター席であったり。まるで右利きの鋳型に合わせるように、この世界は徹底して作られている。そこで僕らマイノリティは生き抜くために、右腕でもある程度の自由が利くようになるまで右腕で物を触る。この世界はあまりに理不尽で、あまりに不自由に作られている、その事を身をもって知っているからだ。僕はソフトコンタクトの軸を合わせるように、その重さを重ねた。
閑話休題<遊園地>
伊織「なんで兄貴と遊園地にいるわけ?」
僕「さあ、俺に聞かれても」
詠美「こらこら、夏休みの思い出でしょ」
伊織「わ!詠美さんの服かわいい!流行りのやつだ!」
佑二「どうせなら水着回がよかったぜ」
僕「めんどくせえなお前ら」
伊織「佑二さん!誘ってくれてありがとうございます!」
佑二「いや、グループ作ったのは詠美だ」
詠美「最後の夏休みだもの、楽しまなきゃ損じゃない」
僕「そだな」
佑二「それにしても人多いな」
伊織「今夏のホットスポットです!」
僕「町ウォーカーに載ってたな、新しいアトラクションだとか」
詠美「女の子は新しい物が好きだから」
伊織「どうします?二手に分かれましょうか?」
佑二「だな、絶対に迷子になる」
僕「なら俺と伊織、佑二と詠美で周るか」
詠美「そうね、そうしましょうか」
伊織「友達に見られたら嫌なんで佑二さんで!」
僕「ぶん殴りたいこの笑顔」
佑二「はは、事情はわかった、詠美もそれでいいか?」
詠美「かまわないわ」
僕「そういう大人びた態度やめろよ」
詠美「え?」
僕「なんでもない」
伊織「じゃあ佑二さんとペアで行ってきま~す!」
佑二「行ってくる」
詠美「楽しんできてね」
僕「んで、よかったわけ?」
詠美「なにが?」
僕「あいつと写メとか撮って思い出作らねえと」
詠美「そうね、でも仕方ないわよ」
僕「ならいいけど」
詠美「別に夏は毎年あるから」
僕「もうちょっと我儘になってもいいと思うぞ」
詠美「そうね、なら眞一と一緒に周りたいわ」
僕「俺は眞一じゃねえけど」
詠美「そうね、ときどきボヤけるわ」
僕「めんどくせー生き物だよお前って」
詠美「そうかもしれないわね」
僕「俺さ、あいつと野球やるんだよ」
詠美「追い出しでしょ?知ってる」
僕「もし、俺が勝ったら」
詠美「うん」
僕「俺があいつになってやる」
詠美「もし負けたら?」
僕「なんてことねえよ」
詠美「どういう意味?」
僕「やつが俺になるだけさ」