オーバーホール

オーバーホール


隣家に住む
球体関節人形
わたしはシモンと
さう呼んでいた
たまに膳を共にし
VHSを見ては
風呂に入れてやる
わたしが流行病に伏せ
けふけふとこむと
隣家に住む
色の抜けた碧眼は
きまつて看病に来る
白髪の生えた畳に
サボテン植え
煎餅蒲団は鋏で
もうずたずたであつた
眼帯をしたシモンは
わたしではなく
じつとブラウン管を
眺めているようで
或いはこちらを
そのやうな奇妙な
心地というものにも
いつのまにか
飽きたり慣れたりと
するもののやうで
出先から帰つてくるなり
わたしはまた同じ
テープを幕間に入れて
再生ボタンを押す
これらが田舎暮らしという
シモンとわたしの関係
いくつかの工程と
そのすべてなのであります