2014-01-01から1年間の記事一覧

雪月抄

雪月抄 なんてんカラアの紅いほほ 口もとかくして走り去る 毛糸の絡まるカラアドは ほそい小雪であみあげた 処女のがらくたであつた おもいの丈の吹きすさぶ ネオンちらつく街のかど 踏まれた影とゆうくれを 珈琲カツプでのみあけた まあるい窓のむこうがわ …

人力車

人力車月夜によごれた十二月 ほつれた絹糸つくろうて ガラスの障子をじつと見る おれはそれらをじつと見る やまあいの禿げた棚田に よごれた字面をぬいつける 映写機廻る歯車さんや テント小屋のおやつさん こまりこまつて雪宿り やせたインキにふる雪は ど…

ざらめ雪

ざらめ雪 ざらめの小雪は どこか私の心のやうでした 青い電流コイルやらで すみきつた十二月のそら

三夜

三夜 こんな夢を見た。 自分は流行病により、病床に伏せていた。混濁とした意識の中、自分は幾度も汽車を乗り継いだ。天井の染みを数えていたところ、一人の炭鉱夫が香気を追って私の枕元へとやって来た。丁度、一間ほどの距離で私たちはほんの少し会話をし…

石蕗

石蕗 冬の空からふつてきた 石蕗がひとつありました 薄黄にひかつておりました まあるいお月のせいでしようか その八重の葉のうらを 舌先でふいとなぞつてみますと わずかに紅がさしました 私はしばし腕木のようでありました

幻灯の月

幻灯の月 しろ色の灯りをけして 浅黄色の夢を着こんで 寒い原野を紅い螢(レイゾンデイトル)大宮あたり下ル あかやきいろやあおいろや(空砲弾→千首)襷をしめた大橋の 酔いのさめぬうちに三途あたり上ル くろやくろやくろやくろやくろ(砂粒→ろくろの恋文)こん…

八景絶版

八景絶版 モザイクの借家に 画家の肉 たべごろの月 しびれた廃屋に 蒲団の耳 たれさがる壁 ねんどのやうな 雷鳴が どうしても なりやまぬ無数の旅館が 等間に並び立ち こずえの泪は くだけてかわいた 方寸ちぎれて 八景絶版 庵からすべり おちたるは 膏のた…

北の大丸

北の大丸 化石の恋文 矢倉の栞乱れ拍子に 白表紙白梅すぎて 北の大丸行つたり来たり 仕出屋さん霜月とんでは 明けのお袋おせちはきつと おばあの餅ほこりの檸檬 おじいの皺師走とんでは くらがえす北野の天満 絵馬破魔矢白梅すぎて 北の大丸

油目

油目 七歩目 六角 錦 油小路 油紙尾の長い 日溜まり 線 京日和の玉瑕 井戸端の女童忍の無い 早馬の吸い殻 碁目 お湯 一尺の 数の子 銀杏 木所処の夕くれは ウイスキイ すみなれた 宿り木の蔓あみこんだ舟の下 橙色の 凄まじさ 秋雨は 油紙ぬけた色 金縛り 画…

デツサン

デツサン 一昨日 おれは複写された ふとカデガンはおつた かた耳ざらざらなる (きみたなじい)一昨日 おれは印刷された たしか木蓮のいろだつた 丁子がぱちぱちなる (おれたなじい)先日 きみは模写された いふのポオジングかいた お医者きいきいやる (それた…

刺殺

刺殺 ゆきすぎし日 濡れた丸眼鏡のむこうは 通常運行(車馬賃四百十円也) お部屋のなかの電鉄は にしき市場行であつた お臼でひいた白墨や うおのたなの赤提灯 てくてくすぎては すぎゆきし火 漬けた商店街のてのひらは 運休見送(煙草賃四百六十円也) 寺町つ…

除夜

除夜 師走ころして ふみ障子すきまの合間に なき黒子牡丹おちては からからり楊枝くわえて からぼたん千里あるいて 編み懸想歯のない暗夜に ひうちいしよめなきいえは 相かわらず絵のない高野は ゆきのない蒔絵のはるは ちくたくと雪洞ともして 茶を沸かす

桜心中

桜心中 おぼろ月夜にふる雪は ちらほら流れておりました 八洲におよぐこざかなは 塩ドロツプのやうでした ひとつ盲をくらつては かたほう漕ぐほかありませぬ たしか縞模様の春でした まるで丈のあわない雨でした 吹雪舞いちるメイビーは はらりと投げ銭にぎ…

飯盛女

飯盛女 中山道のすくばに 一輪のかすみ草があつた おはじきのやうに 月夜にぱちんとないて おやどのおそばに 青い電流ながれていた こじきのやうな それはまるでこじきの 張りかえたころも ほつれた絹糸が月から むかでのしたに垂る 三上の守はしたたらず さ…

愛想

愛想 めんこいかばねに ねばこいかべ ピウピウとふきすさぶ あいたいし 相対死きりむすぶ ほかをあたれど まてどくらせど ピウピウとふきすさぶはかねのけぶりに しつこいえん こごえちまつた泪は かばねの套に染む とうにすぎたがあいたいし おあいそすれど…

乗車場

乗車場 一条寺の駅長はピアノだつた ぐびぐびと鉛筆をのんでいた わたしはじつとただ切符であつた 長椅子のやうな雲が浮かんでいて わたしはそれらをじつとみつめていた まるで古本のやうな景色が いくつかのいつかをなんども なんどもいつたりきたりしてい…

お守り

お守り 紅いお守りを ぶらさげた月夜の晩に きみたなじいと はりついた硝子の恋天井の染みを ござのやうなその染みを かぞえてぎいと うそついた障子の穴ぬりかべのやうな ざまあのない厚化粧を 繰言まじえては なりそめる古都の酒青いくちびる かじかんだド…

映劇

映劇 いばらのはらは 電燈ついたり からからまわる 舞台のそでに 電々松のたちならぶ 円筒たちならぶ 映写機まわる がらがらの とにかくがらんくびのねおちた すりきれた名優は モノトウンの味がした ひびのはいつた十月に ソワレ着た猫が一匹まるでくもが厚…

楚歌

楚歌 燃 消し炭のやうな 旅 猫の革はつた 拍 高利貸しの風きつて 屏 錠のない日をあおぎ 座 在りし名を省みる 面 甲冑のやうな生業は 矢 討てど暮らせど変らず 変 前髪絶句 後髪絶句 線 硝子玉はじいては 糸 手繰る 母 業の荷駄をおろしては 子 狸の革にくる…

化粧師

化粧師 罪の値を切る飴細工 (あるいはシフオン) 着せかえたビトン モノグラムの憂鬱 汚れた枕のやうな雲 (ぽんぽんと毬ついた) なみだの速度で (石工は硬さを保ち) 黒いノミで砕いた かつかつとやつて 質屋にならぶ罰の値は (あるいは綿菓子一つ) 刷られた夜…

静物画

静物画 月のシルエツトは いちじくのやうであつた これからやつてくる 蒸発した灯かりのむかうに 住みこんだ瑪瑙の鯨 お空にくらんできえてゆく それはまるでお月さまの 悪戯のやうな絵画だつた (小窓から静物画眺める) ペン入れ

欠画

欠画 三角のかがみ 欠画した秋のつき すすきのに 四角のぶんちん からすのに 五角のなみだ ながしめに 六角すぎては たちおうじやう おうじやうさいて ついの路地うら カレイドのぞいては また角まがる 画の角削り ひたりあるいて スコウプのぞいては また画…

萩 トタン色のそら 鳶の目ころがし ありのままの砂 あくたのことわり十六夜> みのたけ電燈 いなりのおやしろ ランプのとりい いばらのどんてん 鐘の音クレヨン 絵かきのあんてん かんてん色に そまる萩の夕暮れ

二夜

第二夜 こんな夢を見た。 その昔、途中峠の茅葺の茶屋に、みつ豆のおみつと呼ばれる美しい娘が居た。明朗快活な性格に下膨れした頬がことさら愛らしく、多くの人々から人気を得ていた。近江から京へ抜ける行商人にとって、途中越は過酷な道程であった。その…

月見草

月見草 前の無い 月日にあしぶみ 咲くはあき世 手をばいれては 花てつぽう 足のない 初なこいぶみ 憂くはこの世 桶に咲く月 するりと鰻 後のない 闇夜にくるぶし さわるは今ぎわ 鏡をぬつては あくなき空

暗夜

暗夜 灯りはなかつた 縁むすび 暗夜を漕いでは 又、文むすぶ ざまはなかつた 汗をかき 石の路つんでは 又、のぼる さつをこゆれど 櫂のない 舟人ばかりに つと、のしかかる 砂をにぎれど 灰汁だらけ 只、在るのは こがねの月ばかり

詠 人の世に 在りし日の詠 なぞらへど 人の影すら 手にあまりける はなむけに 咲きたるるのは 礼なりし 我が躰をば こがるものかな

蔓 くもりちる かづらつる さみだれ丁 かさぶたの 泪のつぶて ひかりみつ あかまくら いびつな夏 かきむしる

家主の仮面

家主の仮面 靴はいて くたびれて あまもりしたらば 信号の立つ庭に 家主の仮面が ゆらんとたれて あまもりだいたら ハンケチ濡れて 仲なおりしたらば 見本市の恋の 鏡は紅色 ぐるりと廻し はなしあきたら お財布出して あまりもりしたらば 見本市の藍の 雨は…

帰路

帰路 順之助と千代子は幼馴染の間柄であった。互いに数えで二十になるであろうか。順之助と千代子は下校時刻に合わせ、学校の帰り道の畦道を自転車で押しながら帰路につくのが常であった。千代子の黒く長い髪は、初秋の独特な光に透けて、若い女が持つある種…