2020-01-01から1年間の記事一覧
プレイボールプレイボーイ終回 切なくなるほど意固地になるのが、青年の正しい青春である。小さな町の真冬の海に打ち上げられたガラクタを僕は脚で遠くへ蹴った。着慣れたパーカーの帽子の部分の顔半分だけ、君のことを考える。白い溜息がビーズ状に連なって…
プレイボーイプレイボール8 ファースト側のプレートを踏むと、そこは雪国であった。この稚拙なショートショートにもそろそろ結末やらオチが欲しい場面である。寒風吹き荒れる十二月の市民球場、話は飛んで、九回裏ツーアウト、走者満塁、相手は4番、並行カウ…
プレイボールプレイボーイ7 7回にも入ってくると季節は当然のように秋を迎える。地方に住む普通の男子高校生なら気の利いたポエムの一つでも書いて、自分の青春を締めくくり、銀紙のような白い息と共に、青春を卒業するところだろう。それは小さな公園にあ…
プレイボーイプレイボール6.5 僕は僕たちという括りがなんとも茫洋としていて苦手だ。もっと正しく言えば、僕はそれらをガソリンにして走る車に乗っていないから。慎ましく生きて、人の顔色を適度に伺って、それなりの努力をして、ようやく確からしいなにか…
プレイボーイプレイボール6 僕たちの会話文の中に限れば少なくともこの物語の中に嘘はない、おそらく。念を入れて、おおよそ、たぶん、メイビーなども付け加えておくとしよう。僕は僕の結末を確かめるために、降板せずにきちんとマウンドに立とうと思う。面…
プレイボーイプレイボール5 この僕のさながら青春手帖、雑談集とも呼ぶべきショートショートは、決して甲子園でノーノーをして恋人と結ばれたり、気になるあの子と性別が入れ替わったり、地底から悪魔大元帥が地球を侵略にやってはこない。そんな面倒くさい…
プレイボーイプレイボール4 洗剤の味を連想するのは、逆立ちした女子高生のパンツの模様が縦縞か横縞か柄物か、はたまた女性のブラジャーのホックをどうやって開けるのか、前か、後ろか、片手でか、両手でか、を考えるのに少し似ていると思う。空にある大人…
プレイボーイプレイボール3 小高い丘の上から、夕暮れのこの町を見るのが僕は好きだ。まるでプロットのない小説のように、あちこちに人や車や電車が行き来して、勝手に生きて、勝手に一生を終えていく。一見、野放図に見えるけれど、軸がしっかりとあって、…
プレイボーイプレイボール2 僕はあの時、夜のピアノの音色を何色だと思ったのだろう。トーンにもたぶん色があって、大体が水色だったり、気分がいい時は橙色になったりする。よれたYシャツの皴を伸ばすように、僕は小さい背を伸ばした。何もない部屋に貼って…
プレイボーイプレイボール1 僕は自転車のペダルを漕ぎながら、七月の入道雲を見上げた。緩いカーブを描きながら爽やかな風が、シャツにべたりと張り付いた汗を乾かしてくれる。一昨日十八歳になったらしい、この僕の家庭は早くから理由あって、父と妹と僕の…
彫琢未遂 偏に彫刻と云いましても 半紙の前に数多ある信号機ほど あるいはてにをはの縁日ですから、 理性的な隣人を持つています。 ひとつ、家政系の女学生のやうに、 ミシンでがたがたと縫い合わせるか ふたつ、美大生の辣韭のやうに、 半貴石のファンデー…
理にかなう演題について 垂直にフレームにはいりこむ その手縫いの角度は悠揚であるから 疼痛をモノ消しでごしりとやり また頭のなかの魚に聴診器を当て どかり肘掛椅子でお医者はまだかね いかにも公電のやうにやるから お客は断乎としてそれらを認めない …
ピルエット 吹けば珍奇なメルヘンで ひとは青い果実などと呼ぶけれど 駆足前進でと師も仰るように 下垂した葡萄のチカチカであるから かんかん照りにはいっそう酷く あらすじは少女病のように 腫れ上がった脚の高く蹴り上がる
杓子電報 ふくわらいに興ずるわらべの如く 皐月はまあるい助走をつけて たとえば赤いお母衣や句点のよう はいぎょうなされたのですか 暦かぎかっことじる一名欠損也 前進する歩は桂にはならぬが道理ゆえ かえるのこころもちなどもとより わななく電飾イナヅ…
ダダリオ 瓶ラムネをポキンとやつて立ち 長袖ラーフルでごしりと目をやる 人にひとしく寂しいものなのだから 春先にはてにをはつけてヒヤシンス 余人は四季報に勘定方であるから 丁字路にテンキーで敷かれた鉄線は とりちがえた赤子のやうにちぐはぐ故 木偶…