プレイボーイプレイボール2
プレイボーイプレイボール2
僕はあの時、夜のピアノの音色を何色だと思ったのだろう。トーンにもたぶん色があって、大体が水色だったり、気分がいい時は橙色になったりする。よれたYシャツの皴を伸ばすように、僕は小さい背を伸ばした。何もない部屋に貼ってある古いバス停の椅子に、ぽつりと一人座る大人びた女性の写真。麦わら帽子を被っていつも柔和な笑みを浮かべている。
僕「お前さ、最近なんのアニメ見た?」
妹「いや、見てないけど、なんで」
僕「ならラノベのネタ?名前を盗む?はい?」
妹「いや、萌えるかなって思って」
僕「どんな怪盗でもそれは流石に無理だわ」
妹「冗談。お母さんの記憶ある?」
僕「あるけど、なんで?」
妹「ならいい、ご馳走様でした」
閑話休題<一学期>
佑二「最近さ、気になるやつができたんだ」
僕「なによスティックに藪から」
佑二「女と穏便に別れる方法って知らね?」
僕「......詠美となんかあった?」
佑二「いや、不満もないし、相性もいい。あっちのほうも」
僕「ここ、学校なんだけど。えっとバットはどこに......」
佑二「ストレート、フォーク、カーブ、ナックル、ツーシーム、
たくさん球種があってさ、決め球ってあるじゃん」
僕「そうだけど、それが?」
佑二「あいつさ......やっぱいいわ」
僕「おいおい、修羅場は困るんだけど」
佑二「大学入ったらさ、俺たち別々になるじゃん」
僕「まあ、そうだろうね」
佑二「会えないとさ、やっぱり別れるよな」
僕「統計学的にはまあ、そうだな、人それぞれだけど」
佑二「恋愛ってさ、めんどくせーな」
僕「(そこまで辿り着くのが無理ゲーなんだけどね、俺の場合)
詠美が泣くの見るの、嫌なんだけど」
佑二「あいつは泣かねえよ」
僕「どうしてそう思うんだ?」
佑二「いろいろあんだよ、いろいろな」
僕「はー、ほー、へー、ふー」
佑二「まあよ、近々さ、別れっから」
僕「予告ホームランじゃねえんだから」
閑話休題<駐輪場>
詠美「よっ、相変わらず冴えない顔だ」
僕「うっせー、ほっとけ」
妹「詠美さ~ん!お久しぶりです!」
詠美「XXちゃんじゃない!どうしたの?」
僕「夏休み前だからって浮かれてんだよこいつ」
妹「は?うっざ、詠美さんに会いに来たんですけど」
詠美「この辺も相変わらずで、なんかホッとするなあ」
僕「おばあちゃんかよ、まあいいけど」
妹「この後、買い物行きませんか?二人で!」
詠美「いいわよ、デートなくなったしね」
妹「やたっ!詠美さんと久しぶりに遊べる~♪」
僕「飯前には帰って来いよ、父さん怒るから」
妹「わかってる~♪」
僕はそれを空波形ノイズと呼んでいる。耳鳴りに似たノイズが急に耳から入って、脳を揺さぶり、指先から出ていく。春先からこのような片頭痛に悩まされている。病気かと思い、病院にも行った。内科に行ったのは勿論ないしょである。誰にだって秘密はある。僕にも、妹にも、父さんにも、詠美にも、佑二にも。この空波形ノイズが走ると、奇妙なアレが見えるようになった。ソレは母さんだったり、子供だったり、あるいは動物だったりする。アレとかソレはどうでもよくて、一番不快なのはそれらの全てに顔がないこと。そしてそれらに慣れつつある僕自身にだ。
僕「なにかようかい?これから帰るんだけど」
眞一「雑談だよ、僕らみたいなのは暇でね」
僕「あっそ、死ねば」
眞一「もう、死んでるけど」
僕「腸とか飛び出してるもんな」
眞一「判断基準そこ?ウケる」
僕「笑えないけど、それしまえよ」
眞一「怖がらせたね、歩くとついね、出るんだよ」
僕「飛んだりできねーの?」
眞一「お金はないよ?」
僕「かつあげじゃねーよ、カツも揚げねーからな」
眞一「最近さ、君の回りに違和感はないかい?」
僕「お前が見えるくらいだな」
眞一「僕の他には見える?僕は見えないんだ」
僕「そういや女の子を見たな、髪型で判断してるが」
眞一「モテ期、きたんじゃない?」
僕「うっせー、腸をしまいながら喋るな」
眞一「乗るしかない、このビッグXXXX」
僕「言わせるかよ、このバカ。大体アレにモテてもよ、
意味がねーだろ、顔もわからねえし」
眞一「見ようとしていないだけじゃないかな」
僕「見えてもお断りだけどな」
眞一「美女ならいいんじゃない?それじゃ、またね」