プレイボーイプレイボール終回
プレイボールプレイボーイ終回
切なくなるほど意固地になるのが、青年の正しい青春である。小さな町の真冬の海に打ち上げられたガラクタを僕は脚で遠くへ蹴った。着慣れたパーカーの帽子の部分の顔半分だけ、君のことを考える。白い溜息がビーズ状に連なって、螺旋を描いて消えてゆく。この夜空に輝く星座にまつわる膨大な逸話の中に、僕らはきっといないのだろうけれど。兎にも角にも最終回なのだから、それなりのこころの整理が若者には必要なのだ。慣れないことをするもんじゃないな、と半ば自虐的に笑いながら、僕は左耳にイヤホンを通して、目をつむりながら右耳にイヤホンを通す。中古で買ったウォークマン、バス停で買った温い缶コーヒー、プレイリストは古いシューゲイザーのナンバー、ほちけたマフラーを口元に、完璧だ。
閑話休題<三月某日三年B組教室>
僕「二人きりだな」
詠美「なに?今から襲われる展開なの?」
僕「言い方間違えたわ、卒業おめでとさん」
詠美「冗談よ、卒業おめでとう」
僕「お前さ、佑二と別れたって本当なのか?」
詠美「......いきなりだなぁ」
僕「すまん」
詠美「あはは、らしくていいんじゃないかな
てゆーか、フラれちゃった」
僕「なんか、すまん」
詠美「わたしがみじめになるからやめよっか」
僕「そんなことないぞ?」
詠美「なに?慰めてくれるわけ?」
僕「そりゃまあ、ダチだし」
詠美「そっか、ありがと」
僕「おう」
<沈黙>
僕「大学に行くのやめたって話したっけ?」
詠美「佑二から聞いたけどガチなんだ」
僕「父さんのツテで四月から働くことになったわ」
詠美「もう社会人かぁ、おとなだね」
僕「モラったトリアムも今日でおしまいさね」
詠美「わたしも就職組だし一緒だね」
僕「おまえの学力ならいいとこ狙えただろうに」
詠美「あんまり興味ないかな、そういうの」
僕「そうだろうな」
詠美「なによ、そのわかったような口調」
僕「なら佑二と同じ大学行けばよかったじゃねーかよ」
詠美「重い女って好き?」
僕「勘弁」
詠美「はいはい、この話はおしま~い」
僕「んと、退屈しねーな」
詠美「わたしもけっこう楽しいよ、眞一と居るの」
眞一「そういやそんな名前だったな、俺」
詠美「なにをいまさら」
眞一「いやな、まあ......それはいいか」
詠美「なによそれ」
眞一「ボールの縫い目にこうやって手を添えるだろ?」
詠美「うん、眞一って指長いよね」
眞一「んで、思いっきり腕を振り抜くんよ」
詠美「ほうほう」
眞一「三塁にランナーが居るときはパスボールに気をつけろよ」
詠美「誰に向けて言ってるの?」
眞一「第三者だよ」
<沈黙>
詠美「不意打は卑怯だなぁ......」
眞一「なにが?」
詠美「その勝ち誇った顔やめてくれる?」
眞一「お互いにフリーなんだから、いいじゃん」
詠美「よくない」
眞一「妹なら発狂して喜ぶはずなんだが」
詠美「わたしはあなたの妹さんじゃないんだから」
眞一「ごめんなさい」
詠美「眞一ってさ、あやまってばっかりよね」
眞一「そんなことはないぞ」
詠美「そうよ」
眞一「んで、返事聞いていい?」
詠美「なんの?」
眞一「それ言わせるのかよ」
詠美「あはは、冗談」
眞一「これでも勇気振り絞ったんだけどなあ」
詠美「友達以上からでどうでしょう」
眞一「テーブルにつけただけ喜んでいいのかねえ?」
詠美「ほいほい付き合ってたらビッチさんみたいじゃない」
眞一「さんをつけても品は上がらないからな、一応」
詠美「そんな上品な女じゃないけれど」
眞一「作ってるの疲れね?」
詠美「慣れたけど今日はやめようかな」
眞一「そうしてくれると助かるわ」
詠美「第二ボタンとネクタイよこせ」
眞一「昭和か」