2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

桜心中

桜心中 おぼろ月夜にふる雪は ちらほら流れておりました 八洲におよぐこざかなは 塩ドロツプのやうでした ひとつ盲をくらつては かたほう漕ぐほかありませぬ たしか縞模様の春でした まるで丈のあわない雨でした 吹雪舞いちるメイビーは はらりと投げ銭にぎ…

飯盛女

飯盛女 中山道のすくばに 一輪のかすみ草があつた おはじきのやうに 月夜にぱちんとないて おやどのおそばに 青い電流ながれていた こじきのやうな それはまるでこじきの 張りかえたころも ほつれた絹糸が月から むかでのしたに垂る 三上の守はしたたらず さ…

愛想

愛想 めんこいかばねに ねばこいかべ ピウピウとふきすさぶ あいたいし 相対死きりむすぶ ほかをあたれど まてどくらせど ピウピウとふきすさぶはかねのけぶりに しつこいえん こごえちまつた泪は かばねの套に染む とうにすぎたがあいたいし おあいそすれど…

乗車場

乗車場 一条寺の駅長はピアノだつた ぐびぐびと鉛筆をのんでいた わたしはじつとただ切符であつた 長椅子のやうな雲が浮かんでいて わたしはそれらをじつとみつめていた まるで古本のやうな景色が いくつかのいつかをなんども なんどもいつたりきたりしてい…

お守り

お守り 紅いお守りを ぶらさげた月夜の晩に きみたなじいと はりついた硝子の恋天井の染みを ござのやうなその染みを かぞえてぎいと うそついた障子の穴ぬりかべのやうな ざまあのない厚化粧を 繰言まじえては なりそめる古都の酒青いくちびる かじかんだド…

映劇

映劇 いばらのはらは 電燈ついたり からからまわる 舞台のそでに 電々松のたちならぶ 円筒たちならぶ 映写機まわる がらがらの とにかくがらんくびのねおちた すりきれた名優は モノトウンの味がした ひびのはいつた十月に ソワレ着た猫が一匹まるでくもが厚…

楚歌

楚歌 燃 消し炭のやうな 旅 猫の革はつた 拍 高利貸しの風きつて 屏 錠のない日をあおぎ 座 在りし名を省みる 面 甲冑のやうな生業は 矢 討てど暮らせど変らず 変 前髪絶句 後髪絶句 線 硝子玉はじいては 糸 手繰る 母 業の荷駄をおろしては 子 狸の革にくる…

化粧師

化粧師 罪の値を切る飴細工 (あるいはシフオン) 着せかえたビトン モノグラムの憂鬱 汚れた枕のやうな雲 (ぽんぽんと毬ついた) なみだの速度で (石工は硬さを保ち) 黒いノミで砕いた かつかつとやつて 質屋にならぶ罰の値は (あるいは綿菓子一つ) 刷られた夜…

静物画

静物画 月のシルエツトは いちじくのやうであつた これからやつてくる 蒸発した灯かりのむかうに 住みこんだ瑪瑙の鯨 お空にくらんできえてゆく それはまるでお月さまの 悪戯のやうな絵画だつた (小窓から静物画眺める) ペン入れ