プレイボーイプレイボール8

プレイボーイプレイボール8



 ファースト側のプレートを踏むと、そこは雪国であった。この稚拙なショートショートにもそろそろ結末やらオチが欲しい場面である。寒風吹き荒れる十二月の市民球場、話は飛んで、九回裏ツーアウト、走者満塁、相手は4番、並行カウント、このシーンでおそらくこの物語の主人公である僕が投げるべき球種は、そんなものは決まっている。キャッチャーミットの下部から出す後輩のサインに数回ほど首を振り、僕は意味ありげに縦に首を一度振る。勝敗が必ずしも結末に直結しないよう、ミキサーのように感情を安っぽくこね回して、理屈をアプリケして、それはそれは丁寧に投げ込んできたのだから。わずか六十フィートほどの心地よい距離感と醒めた感情の先、僕の中にある不確かな物、ぐちゃぐちゃな感情を、腕を思い切り振り抜いて、後輩の構えたミットまで届ける。これでエンドゲーム。


閑話休題<エンドゲーム>
 

 後輩「アウトロー要求しましたよね、俺」

  僕「うん」

 後輩「あんだけインコースに布石打ったのに」

  僕「女房役っていろいろ大変だよな」

 後輩「先輩の場合はコントロールいいんでましっすけど」

  僕「ど真ん中放り込まれたな」

 後輩「ど真ん中放り込まれましたね」

  僕「ありゃ、マイアミまで飛んでったかな」

 後輩「相変わらず佑二さん飛ばしますね」

  僕「中学時代からあいつはエースで4番だからな」

 後輩「最後の抜け球みたいなのあれナックルカーブでした?」

  僕「思ったより落ちなくてど真ん中だったけどな」

 後輩「コースがよかったらワンチャンあったかもですね」

  僕「朝練までしてるガチなやつらに勝てるなんて思ってねーよ」

 後輩「形になればいいんっすよ、ナイピーっした」

  僕「後輩くんはさ、ホットはお汁粉派かコンポタ派どっち?」

 後輩「どっちかっていうとココア派っすね」

  僕「缶の底にコーンが残るのがイライラするんだよな」

 後輩「全部コーン食べようとするからっすよ」

  僕「ほれ、まあ飲め飲め(カコッ)」

 後輩「オッサンみたいな言い方やめてくださいよ」

  僕「二次会はねえから安心しろって」

 後輩「じゃあ遠慮なく、あと3年間おつかれっした」

  僕「卒業はまだだけどね?受験もあるしね?」

 後輩「野球は負けましたけど、受験では勝ってくださいね」

  僕「お前はさ、夢とかあんの?将来どうしたいとか」

 後輩「卒業したら自分は働きますよ」

  僕「えっ?即答?」

 後輩「もちろん夢はありますよ、漫画家っすけど」

  僕「ずっとネーム書いてたもんな」

 後輩「売れなくてもいいんすよ、自分の場合」

  僕「でもそりゃ、売れるにこしたことねーだろ」

 後輩「売れたら辛いだけっすよこの業界」

  僕「......まあ、なんとなくわかる」

 後輩「好き勝手して食ってけるのは一握りですしね」

  僕「俺もなにか見つけないとな」

 後輩「自分は先輩が羨ましいっすけどね」

  僕「どのへんが?」

 後輩「自分じゃどう望んでも絶対に手に入らないっすから」

  僕「どういう意味だ?そりゃ」

 後輩「帰りバッティングセンター寄って帰りましょうよ」

  僕「別にいいけどよ」

 後輩「左打ちの助っ人外国人ってロマンありますよね」

  僕「急にどうした?バースとか?」

 後輩「かっ飛ばせ先輩~♪ライトへ~レフトへ~ホームラン~♪」

  僕「俺は掛布が好きなんだよ」

 後輩「先輩、今度は逃げちゃだめですよ」

  僕「......おう、わかってる」

 後輩「打席に立てないやつの愚痴っす、お気になさらずに」

  僕「めっちゃ気にするわい」

 後輩「芯に当たったら気持ちいいっすよね打球音って」

  僕「さっき凄いの貰ってお腹一杯だけどな」

 後輩「とにかくバットに当たればいいんすよ、人生なんて」

  僕「内野ゴロでもか?」

 後輩「見逃しよりかずっとましでしょ」

  僕「そういや見逃してきたような気がせんでもない」

 後輩「悔いのない一振りで行きましょうよ」

  僕「ああ、そうだな、違いねえわ」

 後輩「んじゃ、行きましょうか」

  僕「おう、ありがとうな今日もいろいろ」

 後輩「これでもだらしな~い先輩の女房役っすから」

  僕「ほんとかわい~い後輩だよ、お前は」

 後輩「真の意味でエンドゲームにはまだ早いっすよ~」

  僕「まだ9回があるな」

 後輩「どうせろくにプロット考えてなかったんでしょ」

  僕「はい」

 後輩「最後くらいしっかり決めてくださいよ」

  僕「こういうの苦手なんだよ」