2016-01-01から1年間の記事一覧

華奢の客

華奢の客 いざ黄色い季節になりますと ゆで汁かいた煎餅布団に 薬缶もぴうぴう鳴りました かはたれなる真夜中の甲板は ビロウドの中の迷い猫 或いは余等一行やもしれません たといば辺鄙の一行が おのずから仏蘭西訛りで 万斛の愁いをノオトしたり 薄荷のや…

羊羹

羊羹 秋穂もひやこい文鎮で とおりはいちいち面映ゆい 風はほんのり黴臭く 冊子の脚ものらりにくらり やるかたなしと酒を飲み 雨戸い打つ栗の音を 矢鱈ひふみと名付けては 硯でこさえた甘味を撒いて 野良の作法で島田を結う この羊羹のなかの事だ

半紙半生

半紙半生 トタン屋根もだだぐもり 半紙で拵えた隣人と、 パルプの山でぷかぷかやる よりいつそうの曇り空 むこうの屏風は箔押しで 霙の氷菓がちらちらしている こちらの方はといえば 仔猫になつたり、林になつたり、 はたまた稲光となつたり なにせ人造瑠璃…

無題

無題 花毯の日は照り ここらは病具ばかりで、 茎のお前には辛かろうよ たまに来る便りや 色とりどりの花束を、 慈雨のようにして待つ くちに紅を指して

電流鏑馬

電流鏑馬 雨中に巻き髪はねて どこまでコンクリ模様 ぱしぱしはねては 空間粘土の曇りそら あま沓の色合いだけ ぽつぽつぽそぽそ 鼻先につつかかる こんなのもあるでせう 矢鱈とクレヨンなのは ひかりの淡い車のせい 白いカアテンのなかで あおやあいやくろ…

庵1

庵1 山から下りた霧深い ふるさとにも コスモス咲いて プラアスやマイナスの 田んぼにねえ、 稲やビイ玉のキラキラが 川下に流れていく 二世帯の季節は 淹れたてのマント飲み 神社の脇に腰をかけている こちにきいや、 標識に映る三角なんかも みんな流れて…

空の蓄音機

空の蓄音機 あゝ、九月一日は 空の蓄音機でいつぱいだ ちやうど太陽の横に ハンドルがあつて たれかがギリギリやる メチルの濃い縁側で(夕七つはアマデウス)二十か、二十一だつた たしかそんなやつであつた みずいろの病衣を着て 畳に寝転がつていた 夕板の…

存在消毒

存在消毒 茶封筒のなかの庵で 八番のレコードちりちり おれは丁幾をたてる 湯呑を回すおまえの手を こんなかたちで消毒するのだ (おれは酷いやつだろうよ ずいぶん酷いやつだろうよ) 二本分のメモリがいい 外はぼんやり明るくてさ 洗い立てのある日など 空目…

ダートの春

ダートの春 晩などは、 プルタブの生爪で 暗幕から覗くのである 二世帯の其れらを よくよく馴致された 晩などは、 謄写版に薬をさす 廃油のたまり ギリシャ語の落ちる 双眸のダム湖 晩などは、 ビンテージ物である 白壁に血糊で点描 化繊の春雨に 若葉のター…

人相書

人相書 ひしやげた春やら 曼荼羅の急須にも 淹れたての其れやら 故郷、一杯引き絞る 寂れた文句なんぞ 無用の伽藍であつた どうぞこんな始末です 交尾した景色なんぞで 花粉の濃い季節には こんな今宵でよいのなら へつついに立つ粟のみを かき混ぜるのみな…

Chimaera to Ore

Chimaera to Ore そしていつもの黒縁は 擦り硝子のピンボケです (具合の悪い揚羽蝶 苔の生えた指先、灯る) 額の夜道に飛ぶ花粉 絵の具の飛沫かもしれぬ 金箔のそいつらも きちり油絵に納まつて (指紋のべたついた翅 お前はそれを売るのだ) 麹や味噌なんかや …

ケイナワ

ケイナワ 三面鏡は日照りにて ひだりはぎらぎらし みぎなんぞはまあ酷い 面を耕せども耕せども 化膿した小石を投げ 瓢箪のやうな方寸に 箪笥と喩うべきなのか 皺だらけのあやめの池 無精も生えない畑にも 土手にならんだ白梅で ケトルもぴうぴう鳴る どうぞ…

二月二十八日

二月二十八日 俺の鉛のマントは 黒板の穹を射ています (あゝ、これも遅刻の おんぼろの言い訳なのか) 蒼穹の波浪やら 字引きの髪留やらで 工夫をこらしては これも乾いた覗見です (あなたは均一なのですか いいえそのやうな筈もない) 玻璃のギヤマン人形 完…

女郎蜘蛛

女郎蜘蛛 こんなしみったれた 月夜の晩に、春を思う 金平糖のこおりは からからと ひかりの浮標なげ 太巻もぷかぷか 丁稚も立派に背広着て 春の、中へ きみも行くのです 看板むすめさん あゝ、春はまだかい てな事仰いましたかね 骨に花吹雪と ろくでもない…

無題

無題 あなたはいつも なだらかな砂丘にいて 星座をつかまえる ケージや貝殻 スチール製の椅子 或いは本棚なんかに たとい温度が なくたってもいい どうか、 こころに句点を あしのない影も 背伸びにあくびこらえ 四角いあきばこに かくれんぼうで 悪戯にゆれ…

医療監督

医療監督 樽のなかに軟禁された あざのない子ども なまりを取り出して 熔解して市場へと これはもう変わりませんか 監督と呼ばれたり ときにお医者と呼ばれたり おれはいつたいだれか メチルの香水やらついた きついきつい臭いに 曇天すらもかどばつて ぴか…

水浅葱

水浅葱 雪どけの柳ケ瀬 鉛筆のトンネル抜け くるま引く乳母も えちらとおちらと これもまた変わるので 南天の其れとてや 縫い目と県境とおれと 暗転する洋菓子は かんかん鳴る鳴る そらは水風船で ぱちんと割れては みぞれやどれみを あちこちにふらせ 冷た…

無題

無題 三本脚の洋琴も 屋根にぶらさがった 歯抜けの鍵盤は きらきら星の変奏曲 鉄筋でこした珈琲を飲み その硬いフィルタで 左にいったり右にゆく ヘボンの音符眺めていた 偶にはタールもやった ぴうぴうなる薬缶や サイフォンのだいだい 亜鉛で拵えた部屋に…

離別

離別 このやうな膏のついた べたべたした日光やらを 湯呑にすこし浮かべて 床几に頬をついていると いつもさうおもうのです 頭の中のきれかけの 白熱灯のやうな具合に 或いは古いキネマのやうな あゝあゝ、ざらざらとする 白樺の梢にざら目の小雪 かちこちで…

毘沙門堂

毘沙門堂 灰皿にふり積もる こんな雪もあるものか たれかれにも、あゝ 辺鄙のカトレアすら かうして小さくなつている 頁をめくる日光に (伽藍いよいようるさく) おれはぺこりやつて 地蔵はすいからであると たださう言うだけで 糊口をしのげるのに おれに刺…

キネマトロジ

キネマトロジ 空飛ぶテレビは ひくいひくいカツコウです なにいろもよせつけぬ なんぴとたりとも 方眼紙の田をぬけて (あるいは舗装されたメヌエツト) こなもふいたははばたかせ これらは蒸気水銀と シルクの雲とのアマルガム 蛍光色のあさがきた (おまえは…

ダフニスとクロエ

ダフニスとクロエ 長いコートは ステンドグラス製で 午后のla mer 流れ着いた小瓶 ダフニスとクロエは 宛名のないわたしやら となりに侍るわたしやら へたくそな風景画と もう乱反射しては あらゆる角度と色合いで 風景はモノローグ わたしの左眼の時計は 50…

雪恋

雪恋 シートベルトの黒髪 成程、ああそうか ろくに歩けもしないわけだ 丁度、珈琲こしたあとの おれはそんな色合いで 艶やかな口紅さして まるで千両のやうな色 なんの花にたとうべきか おれはトチノキで こういう風体ですから ベッドのシーツは 露悪ヘルツ(…

独楽

独楽 独楽のやうです 踊りつかれたらそう 唐土からきた砂塵 てのひらにざりざりと いつもさうでした くわんせいの法則なるは こころにも働くやうで 句読点ばかりが 畳に転がるのでした かたい枕のやうな 雲霓のむかうに はや咲き梅の京女 振袖、色剥げあてど…

接吻

接吻 誘拐されたチョーク色のドレス さほども手間のかからない めぐすり貼りついた少女Aは 睨め付ける、空の黒板を 銀色の風はガムで出来ていて いつもこれこれこうだと 説いてまわる教師やそれやらを ほつれた糸くずのやうな 髪をくるくる指でまわしては ど…

からふね屋

からふね屋 シフオンの小路を 音符の花束で敷いて 黒鍵は黒猫の亡骸か それでも空は白くて 冬の日向のベンチに おれではない誰かが いつも隣に座つていた これはドツベル言語か 太陽に毛布がかかり 水銀灯もちらほらと ここら小雪のふりかかる あなたにも積…