キネマトロジ

キネマトロジ


空飛ぶテレビは
 ひくいひくいカツコウです
   なにいろもよせつけぬ
 なんぴとたりとも
  方眼紙の田をぬけて
(あるいは舗装されたメヌエツト)
 こなもふいたははばたかせ
  これらは蒸気水銀と
   シルクの雲とのアマルガム
 蛍光色のあさがきた
 (おまえはあさだとわかるのか)
遠くの錯乱した瑪瑙色
  そのやうな粘土のやうで
  べとべとしたものが
 (おそろしく粘土であつた)
  どうして透明であるといふのか
 ブラウン管にうつるから
  どうやつてもそれがうつるから
おまえはそれらを一瞥し
  また空を見上げては弓を射る
ひなげしのやうでいて
  西欧でいふおぞましいもの
   テレビの管からながれてくる
  掌に降る小雪が溶けては
 (幻想りんどうぽうぽうと)
あたらよいのにと思いますが
  そのやうなものはありませんで
ええ、それは顰蹙という
  ゴオルドと定規の換気扇で
 あがつたりさがつたり
   (せわしく地をはう汽車のやう)
 こらえてもせんないことで
   氷嚢のやうなかびた毛布を
  えちらおちらとかけてやる
  カチカチと懐中時計は鳴り
 ころあいだと一服つけて
(フイルターのない若葉でした)
 吹いたかぜにあおられて
消えてしまう小さな火で
  おれはそれでもかぜに立つ
 雲のハンモツクにかけた
コオトがこんな日には
  鈑金されたやうにとがつて
 とげとげしくさえあります
(あまりこちらによらんで)
エイテルなるものが
  実存するのであれば
 おれにも羽があつてもいい
砂丘のエメラルドや
 白い林檎のやうなそら
さういつた風景をつれてゆける
 (こんなおれであることすらも)
  ふるえる梢にシフオン
 あまいざらめのふりかかる
  リトマス紙もなないろに
 そのやうなこともあるものかと
  こくりこくりとやるばかりです