プレイボーイプレイボール4
プレイボーイプレイボール4
洗剤の味を連想するのは、逆立ちした女子高生のパンツの模様が縦縞か横縞か柄物か、はたまた女性のブラジャーのホックをどうやって開けるのか、前か、後ろか、片手でか、両手でか、を考えるのに少し似ていると思う。空にある大人の階段と、ほんの少しの猥談と、強い吐き気をマドラーで混ぜたようなもの、それが僕の青春でいい。間違ってもソーダで割ったような類の物であってはならない。斜に構えているほうが、幾分か気楽でいいし、過度な期待は絶望を二乗するという事を、よく分かっているからである。
閑話休題<ログインボーナス>
僕「バイトもソシャゲも掛け持ちは大変だよな、後輩」
後輩「そもそも先輩バイトしたことないじゃないっすか、
うち校則でバイトは禁止っすよ」
僕「俺の一時間が千円の価値もないのに課金しろってさ、
時間を強要されるのに矛盾してねえか」
後輩「リセマラしても渋いっすからね、渋いってなんすか」
僕「なうでギャングな馬鹿者たちみたいなもんだ」
後輩「うっす」
僕「お前はさ、卒業したら進学すんの?」
後輩「渋いとこついてきますね」
僕「それは痛いところだぞ、後輩。もうすぐ秋だ」
後輩「うちクリーニング屋なんすけど、まあ進学すかね」
僕「それで課金できるのか、羨ましいなおい」
後輩「でも男が働くのけっこう恥ずかしいっすよ」
僕「まあ、なんとなくわかるけどな.....
ところでバイトにかわいい子はいるのか?」
後輩「おばちゃんばっかすよ、なに期待してんすか」
僕「カラオケに行けば履歴ボタンを押すよな」
後輩「自分、本で入力する派なんで」
僕「旧石器時代じゃないんだから、パネル使えよ」
後輩「うっす」
僕「𦥑とかけてんじゃねえよ」
後輩「学校帰りに男ふたりって、いいっすよね」
僕「こうして河原でダべってるのもあと少しか」
後輩「留年してくださいよ、寂しいじゃないっすか」
僕「事故にあって異世界に転生しない限りねえわバカ」
後輩「あいつらチートっすよね、重課金兵っすよ」
僕「それ人生サービス終了しちゃってるからね?」
後輩「あ、追い出し草野球のメンバーって集まりました?」
僕「おう。来週の土曜日、相手はうちの野球部だ」
後輩「恥ずかしいしコールドだけはやめてくださいね」
僕「打たせて取るのだけはうまいから安心しろ」
後輩「接待してくれるとは思いますけど頑張りましょう」
僕「そうだな、野球は楽しまなきゃな」
後輩「中学以来っすかね、先輩とバッテリー組むの」
僕「二軍のバッテリーだがな」
後輩「二軍のバッテリーっすね」
机の上の砂時計をひっくり返せば、時が少し戻るような気がしたり、その辺のスーパーで売っている、安くても明るい色の花を窓辺に飾れば、ほんの少し気持ちが明るくなるように、心持ちはとても大切だと思う。デフォーの気の利いた金言は、僕のような平凡な高校生には理解できない洋服であるから、なんにせよ分かったような態度でいる事が肝要なのだ。失ってから気づくのと、失う前に気づくのと、失い続けて苦しむのと、探し続けて苦しむのがきっと僕たちなのだから。
閑話休題<ラストサマー>
眞一「最近なにか変わったことあった?」
僕「顔がな、やっと見えるようになったよ」
眞一「僕の顔が?」
僕「ああ、くっきり見える」
眞一「君、偏差値上がったんじゃない?」
僕「予備校で霊的なパワーあげてどうすんだよ」
眞一「ご感想は?」
僕「けっこうイケメンで、いらっとした」
眞一「ようやく見ようと、したんじゃないかな」
僕「なにを?」
眞一「この世界をだよ。百年自縛の僕が言うんだから
まあ、聞いておきなよ」
僕「けっこう年寄りなんだな、若く見えるぞ」
眞一「僕らみたいなのは大体が固定されているからね」
僕「生きてては語弊があるけど、楽しい?」
眞一「君とこうして雑談ができるから楽しいよ」
僕「自縛霊ってことはなんか悔いがあったのか?」
眞一「女の子を探しているんだよ、ずっとね」
僕「元カノかなにかなのか?生前の」
眞一「まあ、そんなようなものかな」
僕「へえ、で、その子の名前は?」
眞一「詠美っていうんだ」
プレイボーイプレイボール3
プレイボーイプレイボール3
小高い丘の上から、夕暮れのこの町を見るのが僕は好きだ。まるでプロットのない小説のように、あちこちに人や車や電車が行き来して、勝手に生きて、勝手に一生を終えていく。一見、野放図に見えるけれど、軸がしっかりとあって、音が響いていてて、たしかならしいなにかを感じられるからかもしれない。安売りの鶏肉四百グラムと唐揚げ粉、サラダ油、パン、グリーンリーフ、トマト、鶏卵、あと食パンに妹のオヤツを自転車の前かごに入れて、僕はふらふらと帰路についた。
閑話休題<東グラウンド付近>
九塁「チェンジアップって自転車のギアに似とるの」
僕「チャリ乗ってんだから、危ねえだろ」
九塁「わたし、気になります!」
僕「やかましいわ、あと訴えられるからな、それ」
九塁「付喪神に向かって失礼じゃの、儂、神様」
僕「のじゃロリにも法律なんてあんのかよ」
九塁「ある。野球にもルールがあるように、神にも規則はある」
僕「とりあえず飛んでるの疲れない?座る?」
九塁「疲れる。座るかの」
僕「で、なんの用?たかりに来たの?」
九塁「なんで投げぬのじゃ?お前さん実は野球がうまかろうに」
僕「......野球は嫌いじゃないよ」
九塁「家族か?部活に入ると時間が奪われるからの」
僕「妖怪変化に言われたくねえよ。めんどくせえの、部活」
九塁「儂はずっとお前さんを見ておったけど、キラキラしとった
今はなんだか魚の腐った目をしておるよ」
僕「それパワハラだからな、カミハラ」
九塁「速球派、変化球派、玄人好みのサイドスロー、右腕、左腕」
僕「俺は左投だ、そして凡庸なバッティングPでいいんだよ」
九塁「油揚げ」
僕「そこまでテンプレかよ。まあ、やるけど」
僕以外に空波形ノイズは見えないし、聞こえない。そういうお約束なのだ、たぶん。世界の断面は、奇形樹のようなもので、切断面によって模様が少し変わっていて、真円であったり、楕円であったり、或いは空白であったりする。僕には僕の世界しかないし、他人には他人の切り口しかないのだ。分かり合おうだとか、分かち合おうだとか、そういう類の物は僕のルールに抵触する。だから僕は、イヤホンを深く耳につけて、僕だけの世界に浸る。ポストロック、ジャズ、フュージョン、クラシックの順に。
閑話休題<居間>
僕「妹の名前の設定後付けだけどさ、伊織は朝食パン派じゃん?」
伊織「そうだけど、それが?後付け?バカなの?」
僕「選択肢に洋食か和食しかないのって、どう思う?」
伊織「選べるだけましじゃん、あと私は抜く派」
僕「知ってるけど、ちゃんと食べたほうがいいぞ」
伊織「うっす」
僕「スマホ触りながらだけど、やけに素直だな」
伊織「それはスマホ触りながらだからだよ」
僕「言ってみただけだよ」
伊織「野球、もうやんないの?」
僕「へたくそだからな」
伊織「言ってみただけだよ」
プレイボーイプレイボール2
プレイボーイプレイボール2
僕はあの時、夜のピアノの音色を何色だと思ったのだろう。トーンにもたぶん色があって、大体が水色だったり、気分がいい時は橙色になったりする。よれたYシャツの皴を伸ばすように、僕は小さい背を伸ばした。何もない部屋に貼ってある古いバス停の椅子に、ぽつりと一人座る大人びた女性の写真。麦わら帽子を被っていつも柔和な笑みを浮かべている。
僕「お前さ、最近なんのアニメ見た?」
妹「いや、見てないけど、なんで」
僕「ならラノベのネタ?名前を盗む?はい?」
妹「いや、萌えるかなって思って」
僕「どんな怪盗でもそれは流石に無理だわ」
妹「冗談。お母さんの記憶ある?」
僕「あるけど、なんで?」
妹「ならいい、ご馳走様でした」
閑話休題<一学期>
佑二「最近さ、気になるやつができたんだ」
僕「なによスティックに藪から」
佑二「女と穏便に別れる方法って知らね?」
僕「......詠美となんかあった?」
佑二「いや、不満もないし、相性もいい。あっちのほうも」
僕「ここ、学校なんだけど。えっとバットはどこに......」
佑二「ストレート、フォーク、カーブ、ナックル、ツーシーム、
たくさん球種があってさ、決め球ってあるじゃん」
僕「そうだけど、それが?」
佑二「あいつさ......やっぱいいわ」
僕「おいおい、修羅場は困るんだけど」
佑二「大学入ったらさ、俺たち別々になるじゃん」
僕「まあ、そうだろうね」
佑二「会えないとさ、やっぱり別れるよな」
僕「統計学的にはまあ、そうだな、人それぞれだけど」
佑二「恋愛ってさ、めんどくせーな」
僕「(そこまで辿り着くのが無理ゲーなんだけどね、俺の場合)
詠美が泣くの見るの、嫌なんだけど」
佑二「あいつは泣かねえよ」
僕「どうしてそう思うんだ?」
佑二「いろいろあんだよ、いろいろな」
僕「はー、ほー、へー、ふー」
佑二「まあよ、近々さ、別れっから」
僕「予告ホームランじゃねえんだから」
閑話休題<駐輪場>
詠美「よっ、相変わらず冴えない顔だ」
僕「うっせー、ほっとけ」
妹「詠美さ~ん!お久しぶりです!」
詠美「XXちゃんじゃない!どうしたの?」
僕「夏休み前だからって浮かれてんだよこいつ」
妹「は?うっざ、詠美さんに会いに来たんですけど」
詠美「この辺も相変わらずで、なんかホッとするなあ」
僕「おばあちゃんかよ、まあいいけど」
妹「この後、買い物行きませんか?二人で!」
詠美「いいわよ、デートなくなったしね」
妹「やたっ!詠美さんと久しぶりに遊べる~♪」
僕「飯前には帰って来いよ、父さん怒るから」
妹「わかってる~♪」
僕はそれを空波形ノイズと呼んでいる。耳鳴りに似たノイズが急に耳から入って、脳を揺さぶり、指先から出ていく。春先からこのような片頭痛に悩まされている。病気かと思い、病院にも行った。内科に行ったのは勿論ないしょである。誰にだって秘密はある。僕にも、妹にも、父さんにも、詠美にも、佑二にも。この空波形ノイズが走ると、奇妙なアレが見えるようになった。ソレは母さんだったり、子供だったり、あるいは動物だったりする。アレとかソレはどうでもよくて、一番不快なのはそれらの全てに顔がないこと。そしてそれらに慣れつつある僕自身にだ。
僕「なにかようかい?これから帰るんだけど」
眞一「雑談だよ、僕らみたいなのは暇でね」
僕「あっそ、死ねば」
眞一「もう、死んでるけど」
僕「腸とか飛び出してるもんな」
眞一「判断基準そこ?ウケる」
僕「笑えないけど、それしまえよ」
眞一「怖がらせたね、歩くとついね、出るんだよ」
僕「飛んだりできねーの?」
眞一「お金はないよ?」
僕「かつあげじゃねーよ、カツも揚げねーからな」
眞一「最近さ、君の回りに違和感はないかい?」
僕「お前が見えるくらいだな」
眞一「僕の他には見える?僕は見えないんだ」
僕「そういや女の子を見たな、髪型で判断してるが」
眞一「モテ期、きたんじゃない?」
僕「うっせー、腸をしまいながら喋るな」
眞一「乗るしかない、このビッグXXXX」
僕「言わせるかよ、このバカ。大体アレにモテてもよ、
意味がねーだろ、顔もわからねえし」
眞一「見ようとしていないだけじゃないかな」
僕「見えてもお断りだけどな」
眞一「美女ならいいんじゃない?それじゃ、またね」
プレイボーイプレイボール1
プレイボーイプレイボール1
僕は自転車のペダルを漕ぎながら、七月の入道雲を見上げた。緩いカーブを描きながら爽やかな風が、シャツにべたりと張り付いた汗を乾かしてくれる。一昨日十八歳になったらしい、この僕の家庭は早くから理由あって、父と妹と僕の三人で暮らしている。夏休みの塾の課題、数学と理科の点数の底上げ、あと個人的な課題だが、叶うなら恋愛。高校を卒業して、大学に入る前に大恋愛くらいはしたい、と思うのが人並みの高校生だろう。重い教材をリュックに詰め込んで、アイスキャンディーを頬張りながら、僕は再び自転車のペダルを漕いだ。ラブコメの神様はきっと意地悪で、たぶん僕には縁のない話なのだろうなどと思いながら。車輪は勢いよく坂道を転がっていく。
僕「何万人も男と女が居て、なんで僕には彼女ができないんだ、不公平じゃあないか」
詠美「講義前にどうしたのいきなり、現実避逃?今さら?冴えないからよ」
僕「直球だな、内角低めの、えぐいコース」
詠美「バカ言ってないで、教室行くよ」
僕「お前の彼氏に苛められたってLIMEしとこ...ピコン」
僕と詠美と佑二は幼馴染で、小中高とまあよくある設定だ。中学時代、僕はライトで八番、佑二は四番でエース、詠美は美人で気立てがよいと評判なマネージャーだった。僕と詠美は進学、佑二はスポーツ推薦を狙って部活に勤しんでいる。中学三年の夏、詠美と佑二は突然付き合いだした。
閑話休題<帰り道>
詠美「あんたまた講義中寝てたでしょ」
僕「なんならゲームもしてたけど」
詠美「はあ...佑二を少しは見習って真面目になれば?」
僕「目標は常に低く、腰も低くして生きていく、それが俺なの、知ってるだろ」
詠美「炊事洗濯して、勉強も大変なのはわかるけどがんばれ」
僕「リア充はいいよな、海に祭りに花火大会、青春だねえ」
詠美「どんな返しを期待してるわけ?おじいちゃん」
僕「女の子紹介して」
詠美「絶対にイヤ」
夕暮れの中、自転車を押して僕たちは僕たちの街に帰る。カーテンの数だけ人生があって、決してリプレイのできない十八歳の貴重な一日が終わる。これからきっと僕は夕飯の食材を買って、家の玄関を開けて、かわいい妹の顔を見て、つまらないワイドショーを見ながら夕飯を作り、風呂に入って、洗い立てのシーツの上に横たわる。
僕「ただいま」
妹「お腹すいた、早くご飯作って」
僕「へえへえ、ちょっと待ってろ、風呂は?」
妹「すませた、あとお父さん飲み会で遅くなるって」
僕「またか、わかった。テレビでも見てろ」
妹「ツべ見てっからいい。ご飯出来たら呼んで」
僕「へいへい」
僕の妹は僕に似てズボラだ。十五歳にもなるとういうのに、家では平気で肌着でうろつく、髪はボサボサ、原色系の服をよく好んで着る、ネット依存症、人並みに勉強はできる、あと家では若干コミュ障。特に父親にはそれが顕著だ。顔はまあ、贔屓目を引いてもお釣りがくるくらいには整っている。中学ではそこそこ人気があるらしい。それくらいしか生態を知らない。知りたいとも思わないけれど。
閑話休題<夕飯>
僕「......」
妹「......」
僕妹「あのさ」
妹「なに?」
僕「勉強どうだ?」
妹「別に、普通」
僕「あんまりネットばっかりするなよ」
妹「参考書読みながらご飯はやめて」
僕「はい」
僕「彼氏とか、できたか?」
妹「なんで?」
僕「いや、夏だし」
妹「夏だと彼氏できんの?」
僕「漫画とかだとそうらしいぜ」
妹「あほくさ、兄貴は?」
僕「俺はそりゃもうあれよ、勉強が恋人だから」
妹「欲しいと思うの?」
僕「いやまあ、人並みにはそりゃあね」
妹「佑二くんには詠美ちゃんいるしね、そう思うか」
僕「あいつらさ、中三の夏に急に付き合いだしたんだよ」
妹「まあ、そういうもんっしょ。それに佑二くんかっこいいしね」
僕「そんなもんか、気づかなかったんだよなしばらく」
妹「付き合い長いからね、言い出しずらかったんじゃないのかな」
僕「そんなもんか」
妹「まあ、そうだと思うよ」
僕「女の子紹介して」
妹「絶対にイヤ」
僕「詠美にも今日それ言われた」
妹「兄貴はまずさ、名前を取り返さないと」
僕「はい?」
妹「あたし、実は兄貴の名前を盗んだんだ」
理にかなう演題について
理にかなう演題について
垂直にフレームにはいりこむ
その手縫いの角度は悠揚であるから
疼痛をモノ消しでごしりとやり
また頭のなかの魚に聴診器を当て
どかり肘掛椅子でお医者はまだかね
いかにも公電のやうにやるから
お客は断乎としてそれらを認めない
まばたきで再演しやうにも白黒で
鰯にから揚げとういう按配なのです
どうか有閑にはアンコールをと
よろい戸をどうぞ叩いてください