女衒の助六

在る長屋に大層な後家殺しが居た。そなる男は珍妙な印度の香らしき物をいつも小袖に入れ、珠のような赤い羽二重を襦袢の上に見事に着こなしていた。髪は無造作にまとめられているが、絹糸のような髪の一本一本はとても艶やかであった。殊に目、その男はおおよそ男子らしからぬ妖しい目をしており、見る者を男女を問わず射抜く力があった。甲州街道に在る其の宿場町の界隈では、その男の名を知らぬ者はいなかった。その男の名を女衒の助六と云う。常に側女を侍し、河岸沿いの檸檬の木の下で逢い引きをしては、何処かへと消えていく。女共や気のある男衆は「そなたのお手にかかりたく候事」といったような文言に短歌を添え、檸檬の木に括りつけては、じっと夜を待った。




花街を
行き交ふ人は
たえぬれど
唐橋渡る
舟は来ぬかな


ましろなる
屏風にうつりし
人の生
我が身の陰に
なに偲ふかな


紅熟れた
睫毛の長い
木の下で
はらと流るる
宵の口にて