電気工事

電気工事










電気工事された夢が
つぎつぎと印刷されていく
なんというはやさであろうか






三番街の夢をすぎたあたり
人手不足なのであろう
兎たちが労働にかりだされていた
まるで柘榴のやうな色をした
きみやうな街灯のしたで
もくもくと兎たちは刷つていた
おそらくあれは官能小説だつた






「それは天然のものかね」






おれは兎たちに問うた
なぜ問うたのであろうか
いまとなつてはわからない







いつぴきの老兎が云うた
ひたいの汗を手ぬぐいで
ごしりごしりとぬぐいながら






「天然のものなど、もうありませんよ」
「あるのは酸性紙と頭陀袋だけでさあ」






おれはひどく狼狽しながら逃げた
兎たちの顔がまるでおそろしく
あまりにのつぺらぼうだつたからだ
おれはぜいぜいと息をきらしながら
タバコに火をつけて空缶を蹴とばした






「なんて夢だ、人さまを馬鹿にしやがつて」






四番街の夢をすぎたあたり
ここらはたしか工業団地だ
わらべがすとんとすわつていた
ほほにご飯つぶをつけていた
おかつぱのめわらべのやうだ
団地は寝静まつていていやにくらい
おれは声をかけてみることにした






「それは天然のものかね」






おれはわらべに問うた
なぜ問うたのであろうか
いまとなつてはわからない






おかつぱのわらべは云うた
磁石でもついているやうな
ずしりと重い座布団のうえで






「天然のものなど、もうありやちません」
「あるのはにせものとゆめだけでふ」






おれはひどく狼狽しながら逃げた
わらべの顔がまるでおそろしく
あまりにのつぺらぼうだつたからだ
おれはぜいぜいと息をきらしながら
タバコに火をつけて空缶を蹴とばした






「なんて夢だ、人さまを馬鹿にしやがつて」







そろそろ夜があけて正常にもどるはずだ
おれは朝までじつとこらえていた
人さまの夢なんぞを印刷したり輸血したり
するべきではないとあれほどいつたのに
なんて夜だ、人さまを馬鹿にしやがつて






「はやく帰りたくてしかたがない」