幻灯

幻灯




幻灯にこがれたひとみ
白黒の写真を花瓶にさし
部屋にぽつり佇んでいた
コチニールのやうだつた
あるいは棗のやうだつた
よるはあかく染められた
牢からいくら手をのばしても
けつしてとどくことはない
若い書生の書く小説だけが
その少女をたのしませた
少女はあおい幻灯であつた
琴の音と春をまちわびて
座敷のおくでわらつていた
しずかに少女はわらつていた