漁村

漁村



其れは漁村にありました
まるで塩でできた角材のやうな
ちいさな漁村でありました
ここらは ぎょぎょ が通信簿です
剣舞潮騒のやうに踊り
ほつたて古屋に立ちおうじやう
おそそがらくた波打ちきわ
砂の驢馬は古典のたづな引き
あげくのはては目目目
おどろんと焼けた砂の魚は
背広を着てまた立ちおうじやう
ここは旅籠でありまするか
海は足袋履き 銭おとす
あるいはさびた浮世絵の雲か
あらゆる角材よせあつめ
二色刷りの念力 銭おとす
踊り狂うた潮騒
はるか桟敷に立ちおうじやう
影絵の狐 指 こんこんこん
さみだれ髪の立ちおうじやう
女はさいだあ 浮世の魚
魚眼の鏡はまるでろくでもなく
われわれを狂しめまする
嗚呼 いびつな角材が 空から
いくつもふつて こふこふ
こふり着流しつつかけ鉄砲魚
あるいはこれは舞姫なのか
茶器にこがれた足軽
驢馬に荷駄つみ木の都
卍をくぐり 浮世の蝉は
龍安寺の川のほとりで
漁村にきつと立ちおうじやう
砂石の川のながるるままに
おちのび 潮騒 銭たりぬ
扶持は貝 縁は茶器
影絵の狐 子 こんこんこん
たばこやりなんせ
むじやうに世知辛 爪楊枝
雪駄にはつた潮騒
ふところにしのばせては
あつい雲に 立ちおうじやう
借金咲いた朝 蓮に祈る
嗚呼 浮世に暇がもしあれば
きつと皆がしあわせに
なれたはずなのに こんこん
絵師 機織師 染めた 金閣寺
潮騒の巖の影 お湯なぞり
こふこふ こふこふ
石庭は結核わずらつては
産湯に 世知辛 親の影
芥子つめた煙管は 雲にとび
鳶はぐるりと 世をまわる
舞い鶴かえりや 潮騒まつ
鳴いた郷里は土間にふし
いまだ こふこふ
そのやうな男がおりました
影絵は得意に お面食べて
その日は漁村でありました
お囃子だけが 遠く故郷に
おもいをはせるのでありました
おもりをのせるのでありました
鳴いた郷里は土間にふし
いまだ こふこふ
きつと皆がしあわせに
なれたはずなのに こんこん
こんこん こんこん
狐の影絵が 立ちおうじやう
其れは漁村にありました
もとより漁村にありました