十牛図

十牛図

ガリ版で刷られた
そんな季節がありました
瑪瑙の汽車が
せわしくあちらにこちらにと
紙幣のやうな人たちは
まるきり寸法がちがうのです
天然痘にかかつた月を
ぼやりとみておりました
仇し野のほうがくでは
どうやらおいろやら
蓑やらがうつているやうなので
手前も汽車にのりました
(二番線九時四十五分発)
暗い線路をがたごと行くと
切符をきる駅員が
なにやら此方をみてきます
四百八十圓のがらくたを
ガリ版で刷つて儲けている
やはり紙のやうな手を
此方にさしだしてきました
トンネルのしろくろが
どこかすすけた手前のやうで
すこし哀しくなりました
ちやりんと小銭をわたすと
深く帽子をかぶりなおし
どこぞへとさつて行きました
絶版された風景を
障子から眺めていると
くるりと小倉につきました
やうやくお色がかえそうです