町音

町音


火の娘にさそわれ
タイポグラフは蔓のまま
揺れる表記、雨けむり
とぼける半目こすつては
焼けた素肌に糸とおし
おし通る小路の結び
米粒ひとつ、頬つけて
ありんしたとつぶやいて
そんなこともありんしたと
受け口でそつとつぶやき
河岸に肢体をあずける
粘土岩のやうなこころは
あすをもしれずにうろうろと
たまに湯けむり、蜃気楼
いろしかけてもせわないと
さとつた頃には白無垢で
家中の財を目に入れて
はたともうろくせわしない
廊下にたつおまえの姿は
まさしくほむらのやうだつた
月にあぐらをかいては
折り紙で編んだ舟浮かべ
みなもに提灯流してく
火の娘とよばれた
いつぞやの
黒いタイポの姿のまま
風に揺れる表記と暖簾に
おし黙り、財布の紐