アルトの傘

アルトの傘



トレンチ羽織つた二月の底は
一体どちら様でせうか


 雨も惚けて畷もぴかぴか
 ぽつりと雑居ビルの屋上に居て
 

(原生天は軽く三棟分上にある)


彼処でさりさり鳴つているのは
おおよそ俺という存在


 三色刷りの念力ですら
 空にもいろいろな事情が在ろうよ
 

恋心もカルキの強く
ビニルの傘のやうにとりどりで


(坊主まだ布施の足りないか)


 こんな紅い傘を活けた娘は
 一体どちら様でせうか


だいいち野暮でありませんか
このやうな仕方では


 こんな町ではエプロンをして
 採れたての鮮度のよい光を


(たまには見下ろしてみるものだ)