浴槽図鑑

浴槽図鑑



浴槽で図鑑を眺めていると
どうしたものやら夜の分厚い
これは火急の用件であるやうで
鯨や鳳などを捕まえる頓智
おれにはまるで浮かばず
この竿先の針でオーロラや
延長あるいは意識そのものを
達人や名人はえいとやる
そのやうな業を三十あまり
繰り返せどもままならず
透過性すらも喪われて行く
誰かこの瓦斯の抜けたやうな
四次元延長のなかにいて
丁度この画鋲の星座のやうに
あすこが北極星だと言つてくれ
ずくずく疼く空をみても
行き交うのはキメラばかり
トンボでレールをひいて
いつもこの車窓から
白いくまのぬいぐるみと
おれと二人は旅をする
早送りのテープのやうに
ときおりうるさい風景ノイズ
アイスピツクでざくざくと
こいつはなぜ笑顔を絶やさない
いつかこのトンネルを抜け
きつと青い空や音符のついた
ひかりやらをおまえにやるから
誰も見ていないうちに泣いて
この空の浴槽をみたしておくれ
おれはさう願わざるを得ない