望遠桃源

望遠桃源



若しこの陶器のやうな
ぬけるような蒼さの塗材が
あればどんなによいかと
逐一、おれはさう思う
強引にごしごしやる度に
風も吹いては文字もぱらぱら
印字のパズルはシヤボンで
日経やら般若のやうだ
かびた布団に包まる日には
きまつて窓にはりついた
それらの呪詛を睨むのだが
ぱちぱち目をやる事すらも
おれは野良ではないのだから
せめてこの切手の糊ほどの
べたべたした心持ちくらいは
どうにかできぬものかと
日々、あごに手をやるばかり
たまには天使の恰好をして
おれの前にたれか立ち現われ
日銭とそれに色を足した
焼き上がりのひどく悪いおれにも
駄賃を頂けぬものかと思つては
丁稚であちらこちらへと
いろはにほへともちりぬるを
空を見上げれば水族館で
深海に咲く花のないかしらんと
山菜採りの少女のやうに
竹かごかついで探してまわる
ピンボケであるからし
このやうにぐつぐつと
おそらく蒼さと思しき其れを
只、竃に立ち煮込んでいる
こんな景色のあつてたまるか
それでも頓馬を装つているのも
一体どのやうな理屈なのか
おれにももうわからないのだから
下手にも鉄砲とは方便で
おまえは邪険にするではないか
一度ならず二度までも
五徳は決して羽織るものでも
ましてや薬湯でもない
おれでもわかつているのに
毛並みのよい硝子で
皆さうだつたはずなのに
どうしてそのやうな振る舞いが
出来るというのであろうか