蠅
蠅
おまえはどうして
そのやうな羽音をたてて
おれの手からはなれてゆくのだ
おれは地獄の蜜の香気をおつた
聖書を焚いている蠅がいつぴき
パイプオルガンをならしていた
瓶底湖には天使と蠅がいた
モダンな春の一夜の晩餐会
おれの手からはすりぬけてゆく
けしごむのやうな稲光が
泥田をまるで学徒のやうに行進する
嗚呼、どうしておれにはつかめないのだ
しごかれたゴムのやうな歓喜が
交感器をつたつて交響している
イデアの泉にかぎられた祝福を
ベルゼバブには甘美なのろいを
おれからはなれた蠅は岩になつて
しまいにはなきがらになつてしまつた
そのやうなできごとが
あるやうなきがしていた
幻想の部屋でのできごとであつた