おまえはどうして
  



  そのやうな羽音をたてて





おれの手からはなれてゆくのだ





  おれは地獄の蜜の香気をおつた





聖書を焚いている蠅がいつぴき





  パイプオルガンをならしていた





瓶底湖には天使と蠅がいた





  モダンな春の一夜の晩餐会





おれの手からはすりぬけてゆく





  けしごむのやうな稲光が





泥田をまるで学徒のやうに行進する





  嗚呼、どうしておれにはつかめないのだ




しごかれたゴムのやうな歓喜





  交感器をつたつて交響している





イデアの泉にかぎられた祝福を




  ベルゼバブには甘美なのろいを




おれからはなれた蠅は岩になつて




  しまいにはなきがらになつてしまつた





そのやうなできごとが




  あるやうなきがしていた





幻想の部屋でのできごとであつた