2015-01-01から1年間の記事一覧

無題

無題あなたは空を眺める 脾肉のついた翡翠のくもは 暦の梯子からすべりおち やがて標本されることになる木こりをたずねるといい あなたは断面を知れるだろう 飾られ削られた沈黙を たとえかた眼をもがれても蝶番はすぐそこにある それに囚われすぎてはいけな…

無題

無題詐病につかれた時計は 決してうつつを裏切らない 秒針は北の方角を示す わたしもあなたも旅人であった葡萄酒はいつも語らない そろそろ錨をおとしてもいい 金具のない夜はつまらない あなたはもう知っているのだから鏡のまえのあなたは 静物画のなかの果…

ざいない歌

ざいない歌ざいない身には 田のみで、梟 呆呆と鳴いている くつきをぬけて いたるきやう 鴨川をどり よよ、よよ、と むれはどこかと 俺は人に其れをきき ああ、ざいない身 其れがどうにも おれはどこかと 俺は人にそれをきき ああ、せんない身 すまきの春と …

無題

無題青畳はてかがみで すすらぼけては 雨戸たたいて おひいさんにじむ あさひの金具は きらきらと 掌にようしやなく おれのひらに

鬼灯

鬼灯つぎはぎだらけの よるがきて 一つこえては とうげにほつり また、こえて いくたびこえては もようがえ なないろのあめ 舌であそばす ひえのふもとは ほおつきで だいたいそまり とうじにつくまで あさをきやう まるでよるのやうな つぎはぎだらけで

御守

御守しらひげの あかき守りに しらさぎも とんでいぬ間に 頬なでるかな

晩春

晩春菖蒲がふいては むらさきの おやぼはやめてや はさみの小雨 身をきるやうな むらさきは いろいろあせて やぼつたい となり石榴に しずくたれ おゆびからませ あまどい走る 暗夜のおとぎに おやぼはやめてや 貴女に、一献 手前に、一献 晩春のつゆをけり …

無題

無題わかばしけもく 月の鼻緒きれたなら おたばこ屋さんへ 小皺のめだつは瑕疵ぷかりと浮いて 洋装のけむりをながむ なお、えんとほく かげ絵の坊主は梨なのかはんぶんやつては ぼんにくしやりとやつて また、ぷかりとやる 踵を返せどあてはなひおまちのこし…

禁門ノ変

禁門ノ変日々ノ門 西ノ院二通詰メ モロトモニ 花ノ散ルヲ見ル 閨二入リテ 勝手ヲ赦ス事 数刻 鏡ノ前 髪ヲ梳イデ 床几二モタレ 菊ノ花 モロトモニ 無体ナ作法デ 生殺 是二飽イテ 押小路西入ル

けむり

けむりおたばこぼん はんめでもんめ ながめていた まなかにわけた ながしめで せきころしては ちのまじつた けむりをはいて こふこふやる たちのぼつては またはいて ぼんにはいおとし てのひらを じつくとながめて はんめにもんめ とこのまに つんだなみだ…

十牛図

十牛図ガリ版で刷られた そんな季節がありました 瑪瑙の汽車が せわしくあちらにこちらにと 紙幣のやうな人たちは まるきり寸法がちがうのです 天然痘にかかつた月を ぼやりとみておりました 仇し野のほうがくでは どうやらおいろやら 蓑やらがうつているや…

雪隠

雪隠おつぱじまつた銅鑼の宵 かごめやかごめ おあしがすこし足りまへん 雪隠のかかみのまえで ほそいたばこをのんでいる いやにながいやつだつた ながいつとめの束の間に かごめやかごめ 煙のやうなやつれた頬に さいた花弁を鋏にて ぱちりときりとつては 其…

無題

無題こんぺいたうが おゆびに透けては 又、ひとやすみ つけたお代かさんでは はやがけのやうな ひかりの銛やら お空にういた いろがみやらが あちらこちらに ころころがつては めじろのやうな おとたてことたて 襟のつつぱた新緑も おいろぬけおち 又、手前…

無題

無題かけた縁も臍を曲げ 硯の庵にもぽつぽつり ふぐりが咲いたころ こむらさきの雨たけが お樋にたまつてゆく いちどかつんとやつては またじつとそれをまつ 薄紅いろがまじつたり こはくいろがまじつたり 百色眼鏡のひやをのみ 丈で百乗の泪をのみ 枯井戸の…

無題

円山にてしだれのぼやを眺めていた あちらこらちらに灯がともる 初潮の乙女のやうな具合で一間さきの射的屋では 面をつけた子坊主が ぱちりぱちりとやつていたとおりすがりに宵がきた 藪のむかうで指くわう 稟のないふしだらなさで三色刷りのまるやまは 不是…

宿場町

宿場町スチイル玩具は かごめのおちごさん 中山宿場のあたり きちんと座つておる 丸眼鏡に映る手前 まるで豆腐のやうな 柔らかいひかり(ぽつりとふる春雨は なきぼくろのやうだつた)指揮者のいない オウケイストラのやうな さびれた商店街は まだきちんと座…

贋作

贋作一つ、ふうしの電柱ですやがて砂鉄まじりの春がきて ふしのないふしだらなさや そのたもろもろ 唐橋あたりにながれます三つ、おもいのお地蔵でした西洋でいふミサというやうな そのやうなこころもちで そつとお餅をそなえました 雪吊のやうな行為です五…

赤レンガ

赤レンガはすむかいの恋が ひつそりと摘まれてしまう 床几にほほついて それらをじつと眺めてはとほく汽笛の音がした 赤レンガはつばきのやうで まるでおそろしい 屋根のない心のやうだ駑馬駑馬とおいかけて また去つていつてしまう 在る、変性的情事を おれ…

冬のスケツチ

冬のスケツチしけもく色の空から ふつてくる翡翠のこほり おれの目はみどりで 空もまたみどりであつた

油池

油池悲しみあふれた ふるい油の池のそば さかさの看板が がたがたふるえる金の塀のりこえた しろい泡のつわもの 庇のない師走には こいつらがいた風のけなみを 梳かしていく手合い こういうやからは 刃びいた夜長のやうだ膳のところは いろめいた坂の道 にか…

天包丁

天包丁ふたりひと 手首のない青い人 壊れた時計 ちくたくと鳴く 拍をあわすやうに なはりひと それはまるで 枯れた鏡のやう いいやうのない まるでいいやうのない やはりやうのない じつと掌をみつめて 蒸気水銀の春をまつ ネジのない月を ぐりぐりまわして

うきわかもめ

うきわかもめ縫い針のやうな春がきて マツチ棒を靴ですると 屋根うら部屋はどんちやんや それはそれでカビ臭い はがれた景色をじつとみて ボレロの窓際でじつとみて 俺はまたもくに火をつける あの頃はマルボロとねんごろで いまはワカバとそのやうだ これを…